万事屋
水しぶきを上げるような音。バイクなのか、車なのか、とにかくエンジン音が響く。
薄暗いので、今が夜明けなのか、朝になってしまったのか、
よくわからない。ソファで眠りこけてしまった。
テーブルの上にはたけのことぬか。
ヅラの使っていたシャンプーは、シャンプーみたいなものだったようで、
さわればキシキシした手触りで、おまけに、多分、これは
湿気の多いときのどくとくの感触。ああ、外は雨なのだ、だから、薄暗いのだと、
起き上がる。
毛布は自分で掛けたようだった。
新聞が読みたいと思った、何時もは入るはずの神楽が、いない。
サダハルの寝息が聞こえるだけだ。押入れで眠っているとはいえ、
いるべき人がいない、たまたまこの部屋に帰ってないだけなのに、
違和感。存在がないことへの違和感は手持ち無沙汰となり、普段は読みたいなんて
思わないようなものも朝から読みたくなるのだ。
ババアにかりてこよう、そう思い、俺は、玄関をあけ、サンダルを
履き、外へ出る。
階段を下りようとして、声が聞こえる。聞きなれた、ガキの声。
「じゃあな、腐れ公務員」「ああ」
神楽の声と、土方クンの声。
俺は思わず、身体をかがめて、階段に座り込む。
ふくちょーサンの黒い丸い頭を思い浮かべて、苦しい何かがのど元をせり上がってくるのを
感じる。ゆっくりと、這うようにして、その場を離れ、玄関へと戻れば、
己の主の気配を感じ取ったサダハルがすわっていて、
くううんと鼻をならしていた。
ヅラの言葉が今更。心配じゃないのか?
別に心配じゃない。ふくちょーさんは、神楽みたいな
子どもに手を出すほど飢えちゃいまい。
サダハルの頭をひとしきりなであげ、俺は、もう一度、ソファに横になる。
耳をすませば、神楽の足音と、よくわからない鼻歌、サダハルのただいまを言う甘えた泣き声。
いつもと変わらない、ただ、時計をみれば、朝の八時半。
寝たふりをする俺に、神楽は気づくのだろうか。